書籍紹介: 自営コンサルタントが生き延びる方法(G.M.ワインバーグの本)

紹介する本の正式なタイトルは「コンサルタントの秘密」ですが、内容的にはこの記事のタイトルにした「自営コンサルタントが生き延びる方法」です。こちらの本です。

古典であり、それなりに名前は知られた本だと思いますが、タイトルが「コンサルタントの秘密」であるために、読むべき読者に届いていない気がします。私自身、2000年頃にはこの本の存在を知っていましたが、その後10年以上、「申し訳ない、御社をつぶしたのは私です」のような、コンサルティング業界の不都合な真実を描いたものと思い込んでいました。

しかし、自分の値付けに悩んでいた時期にふと中を見てびっくり。本の後半部分を中心に、自営コンサルタントが生き延びるためのアドバイスがかなり具体的に書かれています。「自営」というところがポイントで、値付けとサービス提供の両方を自分でやれる立場の人向けです(そうでない人でも活かせる点はもちろん多いのですが)。

後半の目次は以下のような感じです。

11. サービスの売り出しかた
12. 自分に値段をつけるの法
13. 信頼を勝ち得るの法
14. アドバイスを人に聞いてもらうの法

書かれているアドバイスをいくつか紹介します。引用箇所は、いずれも上記目次の範囲内です。

信頼を勝ち得るための策略とは、すべての策略を避けることだ。
(p.216 策略と信頼の第4法則)

自営という立場に限らず、仕事をする上では「結局、これに尽きるよな」と思います。ただしこれは、正しいと思うことならずけずけ言ってよいということではありません。そのあたりのことも、本書には色々書かれています。

料金は、どちらに転んでも後悔しないように決めよう。
料金を設定する場合、可能性は2つある。1つは依頼主がそれを受け入れ、私がその仕事をして料金をもらう、という可能性である。またもう1つは、依頼主がそれを拒否し、したがって私はその仕事をせず、料金ももらわない、という可能性である。第9法則によれば、料金はどちらの場合でも、私がほぼ同じ感じを持つように決めるべきなのである。
(p.206 後悔最小化の原理)

これは、引き受けてから文句を言いたくなるような条件で仕事を受けないようにする、とも言えます。条件を調整するときには、BATNAをちゃんと考えましょう(BATNAについて以前に書いた記事はこちら→ https://casualstartup.hatenablog.jp/entry/20131204/negotiation_batna )

もし読者が、時間の四分の一をマーケティングに、またもう四分の一を余裕にあてるとすれば、料金を請求できる時間は実際の時間のたった半分にしかならない。

ところでそうやってかせいだお金の半分ほどは管理上の費用に取られるものとし、さらに残りの20パーセント相当を、まさかのときのために積み立てるとすれば、ほしい給料の5倍の請求をしなければならない、ということがわかる。
(p.193 何もしないことは何かをしていること)

「料金を請求できる時間」の原文は、「billable time」です。日本語でも、士業の人がそのまま「ビラブル」と言っているのを見ることがあります。英語だと、professional service firmと言われるような業種で一般的に使われる表現です。

内向的な人にこそお勧め

営業に関するたいていの本は、押しの強い営業マンタイプになることを求めている気がしますが、この本の著者、ワインバーグはまったく逆です。

靴下を洗濯後にそろえるのが面倒という理由で、同じものばかり大量にまとめて買ってたり(本書p.68)、ピンボール(昔ながらのリアルなやつ)に凝りまくって店で一番になったエピソードがあったりします(「スーパーエンジニアへの道」という別の本に出てくる)。

かなりギーク気質で内向的な印象を受けます。

そういう人が長年の模索の末に行きついた法則というところに、似たような気質の人間として共感を覚えます(私の気質は、このブログのたいていの記事がニッチなネタの深掘りであることから推測できる通りです)。

この本の文章について

この本、全体に読みやすい文章かと聞かれたら、ノーです。各アドバイスが小話のようなスタイルになっており、じんわりとエピソードを語り、最後の落ちとして法則が出てきます。最近のアメリカ英語の、「段落の最初の文で言いたいことを述べる。段落ごとに言いたいことを明確にする」といった文章スタイルに慣れていると、とっつきにくいです。

良い翻訳かと聞かれたら、ノーです。誤訳もちらほらあります(誤訳箇所を紹介しているブログがありました。http://goyaku.jugem.jp/?eid=136 )。誤訳までいかなくても、原文で「コンサルティング」となっている箇所を「コンサルタント業」と訳しているなど、気になる点はあります。

ただ、この2点を理由にこの書籍を避けるのはもったいない。自営で知的サービス業を営んでいる人であれば、ITコンサルタントに限らず、得るところがあると思います。

前半は少々かったるいので、実用性が高い11章あたりから読むのがお勧めです。上記で目次を紹介している部分です。

翻訳について補足

余談ですが、私は原書も買いました。それも、紙版をUS Amazonから個人輸入するという手間をかけて…(Kindle版だとOCR起因の誤植がちらほらあるというレビューがあったので)。

原書を読むと(目次を紹介した部分しか読んでいませんが)、現状の翻訳は細かい問題はあるものの、全体としては意外に良くできているという評価に変わりました。もちろん誤訳や要改善ポイントはあるのですが、慣用的な表現が多いこの原文の全体を、現状より良いものに訳し直すのはかなり困難で手間がかかりそうです。