自分で経理をやると経営の数字がよく分かる

株式会社オンターゲットは、税務署などの閑散期を意識して、あえて8月末日というちょっと珍しい日に決算日を設定しています。先日、初めての決算(当然のごとく赤字ですが…)と税申告を行いました。第1期目は経営の数字に対する肌感覚を身につけるため、普段の記帳から決算まですべて自分自身でやってきたのですが、経営者は1度は自分で経理をやるべき、と改めて思うので、まとめておきます。

なお、税関係の書類にある税理士署名欄は、自力で作成しているのであれば空欄で構いません。

経理のデータフローを整理する

まず、経理業務の流れを確認しておきましょう。このブログの読者なら、データフロー図が一番分かりやすいと思うので、描いてみました(記号はより直感的なものに変えています)。


  1. 「日々の経営活動」は、打合せのために電車に乗る、書籍を買う、などの細かいものから、給料を払う、銀行から借入れを行うなどの大きなものまで様々です。
  2. 「意味づけ」とあるのは、日々の経営活動から生じる金銭の変化に対して「何のための変化か」というのを判断し、勘定科目に仕訳する作業です。
  3. 「機械的に集計」とある部分は、勘定科目ごとに合計しているだけです。コンピュータが普及するまでは、この集計作業を手作業で行っていたわけです。今なら、見栄えを別にすれば、SQLでGROUP BYしてSUMするだけです。
  4. 「税務的な補正」とあるのは、損益計算書上の利益(税引き前利益)に対して、たとえば接待交際費の分を足し戻すなどの作業です。

こうして整理すると、意外と単純なことが分かると思います。

自社の経営状況をタイムリーに知るには、自分で仕訳入力するのがベスト

経営者は売上げを取ってくるのが仕事、と言う人もいますが、赤字仕事ばかりではいずれ会社がもたなくなるので、利益を出すのが仕事だと思います。そして、利益を出すには、貸借対照表(以下B/S)や損益計算書(以下P/L)を逐次見ながら、正しい経営判断をする必要があります。

さきほどのデータフロー図を見ると、B/SとP/Lを作成するためには、仕訳データが入力されている必要があることが分かります。したがって、タイムリーにB/SとP/Lを見るためには、タイムリーに仕訳データを入力しておく必要があります。

また、仕訳というのは「何のために金を使ったのか」の意味づけをする作業であり、経営者自身の意図を反映する必要があります。

これらを考えると、仕訳入力は、自分でタイムリーに行うのが一番です(自分でやらないと、意図を第3者に説明しなくてはいけないので、やり取りの手間がかかる)。

仕訳を自分で入力するための情報

自分で仕訳入力するのがベストと言っても、経理業務を経験してから起業する人は少ないと思います。自分自身もまったくの未経験だったので、どの程度の知識が必要か、まとめておきます。

まず、大前提として、財務諸表(B/S、P/L)の読み方を知らなくてはいけません。これは仮に経理を自分でやらなくても、会社を「経営」する者としては必須の知識です。自分の場合は社会人2年目の頃に財務諸表の読み方に関する講習を受けるなどして身につけたのですが、色々な本が出ています。たとえば、「決算書を読む技術」という本は、決算書(財務諸表)を大雑把に理解することを目的としていて、おすすめです。

ビジネス基礎体力が身につく 決算書を読む技術

ビジネス基礎体力が身につく 決算書を読む技術

財務諸表が読める知識があれば、あとは実務向けの知識をちょっと加えるだけです。以下の2つの情報源はとても役に立ちました。

  • 「自分でパパッとできる はじめての会社の経理」(翔泳社)
    財務諸表の読み方は知っているが、簿記を実際にやったことはない、という人におすすめ。この本は、会計ソフトで機械的に集計することを前提に、正しく仕訳をする方法にフォーカスして書かれている点が便利。
    自分でパパッとできるはじめての会社の経理

    自分でパパッとできるはじめての会社の経理

  • 国税庁が公開しているタックスアンサー (http://www.nta.go.jp/taxanswer/index2.htm)
    B/S、P/Lをタイムリーに作成するのが目的だが、作るからには税申告を意識した仕訳にすると後が楽。税制度は細かい変更が多いので適宜このサイトで確認。

自分自身も、最初に電車賃の仕訳を入力するだけで2,3時間かかったので、最初はちょっと難しく感じるかもしれませんが、すぐに慣れてきます。

さらに、自己資金の小規模スタートアップを運営しながら経理を行う上で便利なノウハウを補足しておきます。

  • 創業時にせっかく会社に入れた資本金を、すぐに日々の交通費やパソコン購入などで引き出してしまうと、面倒な増資の手続きが必要になってしまうので、すべて自腹で立て替えて、会社からの費用精算は会社に余裕ができたとき、とする。
  • 「役員借入」という勘定科目を流動負債として新規作成し、自腹で立て替えたものはすべてこの形で記帳する(ちなみに、勘定科目に特に規則などはなく、自社の事情に合わせて自由に設定できる。税申告のときに特別扱いが必要な交際費などだけ分かるようにしておけば、あとは自由)。たとえば電車賃の場合、借方「旅費交通費」で貸方「役員借入」とする。なお、役員からの借入金については、特に利息を支払う必要はない模様。
  • 領収書は、7年間保管する義務はあるが、税申告のときに提出する必要はない。月別ぐらいで封筒に入れておけば十分(台紙に貼り付けることが義務付けられているわけではない)。仮に税務調査となった場合には、領収書も調査の対象となる可能性がある。

これだけ分かっていれば、とりあえずの経理業務はこなせると思います。なお、簿記やビジネス会計検定などの資格は特に必要ありません(自分はこの記事を書くために両方とも3級を受けて合格していますが)。

会計ソフトの選定とちょっとした工夫

データフロー図にある「機械的に集計」の部分で、会計ソフトが必要です。マイクロソフト製品などと異なり、年間保守費を払わないとバージョンアップされないのがほとんどのため、販売価格よりも保守費に注意が必要です。自分は少々マイナーですが、保守費が年間15,000円(税込)と安い「ミロクのかんたん会計」を使っています。画面に飾り気はいっさいありませんが、入力した仕訳を集計させるだけですので、特に不便はありません。

ミロクのかんたん!会計6

ミロクのかんたん!会計6

電車賃などの細かい支出を、いちいちミロクを起動して勘定科目をプルダウンで選択して記入するのは面倒だったので、普段はExcelで作った下記のようなファイルに入力して、月に1回程度インポートしていました。

このファイルのベースは、ミロクの導入時に以下のように作成しました。

  1. ミロクを起動し、いくつか伝票を起票して、電車賃などの仕訳を入力する
  2. 仕訳データをエクスポートする(拡張子はujtとなっていますが中身はcsvです)
  3. エクスポートしたファイルの拡張子をcsvに変更する
  4. Excelを起動して、外部ファイルからの読み込みで、エクスポートしたcsvファイルを読み込む
  5. Excelファイルをxlsx形式で保存しておく

最初にこうしてExcelファイルにしておけば、普段の仕訳入力はExcelで作業できます。自分はさらに、勘定科目の一覧をミロクからエクスポートしてExcelファイルに読み込んでおきましたが、手入力しても構いません。グレーのセルには、以下の内容の数式が入っています。

G2セル: =ROUNDDOWN(F2/1.05*0.05,0)
L2セル: =F2
M2セル: 0

次に、インポートの作業手順は以下の通りです。

  1. Excelを起動してインポートしたい内容の書かれたシートを選択しておく
  2. 「ファイルに名前をつけて保存」でcsv形式で保存する
  3. 保存したcsvファイルの拡張子を、ujtに変更する
  4. ミロクを起動して、ujtファイルをインポートする
  5. インポートが終了したシートは、Excelの中でシート名を変更して保存しておく(重複してインポートすることを防ぐため)

なお、貸方が役員借入以外の取引については、ミロクの中で伝票を起票して入力しました。そんなに多くはないので、たいした手間にはならないと思います。

顧問税理士が欲しい部分もある

冒頭に書いた通り、税申告に税理士が必須というわけではなく、顧問税理士は必ず契約しなくてはいけないというものではありません。

とはいえ、1年弱の間、記帳から税の申告まですべてを自力でこなしてくると、やはり税のプロである税理士に相談したくなることもあります。

たとえば、アメリカのO'Reillyのサイトで電子書籍を買うと消費税の課税対象外になると思われるのですが、消費税はなかなかややこしいので今ひとつ確信が持てていません。WEBアプリケーション開発をしていると、日本にいながらにして海外のサービスを使うことが多くなりそうなので、そういうケースではやはりプロの知恵が欲しくなります。

自分としては、以下のやり方に対応してくれる税理士がいれば、お願いしてみようかと思っています。人によって要望は違うと思いますが、参考までに挙げておきます。

  • 記帳は逐次自分でやる(試算表もリアルタイムに自分で作成する)
  • 入力した仕訳について、期末に税申告することを見据えて逐次(週次ぐらいか?)チェックして指摘して欲しい
  • 税に関する質問と回答は、Bugzillaのようなもので、オンラインでもらう方が嬉しい(深夜などでも使えるから)
  • 税申告書類の作成は自分でもやれるが、それなりに手間がかかるので、適正な価格なら依頼したい