資産運用の算数 (3) 債券の利回り計算

債券の利回り計算について紹介します。個人が債券を直接売買する機会は少ないと思いますが、基本的な金融商品の割にあまり知られていないので、紹介しておきます。

「国債」や「債券」ってそもそも何?

新聞記事などでよく「今日は長期国債の利回りは大幅に低下(価格は上昇)」という記述がありますが、国債って何でしょう。はてなキーワードを見ると「文字通り国が発行する債券で(以下略)」と書かれています。それでは、債券ってなんでしょうか。

債券というのは、要するに他者からお金を借りるときに相手に渡す、チケットのようなものです。日本国債10年物というチケットには、下図のような内容が書かれています。

実際の債券(たとえば個人向け国債)には、他の条件も着いていたりしますが、この図にある1〜4は、基本と言えます。それぞれ以下のような意味です。

  • 1:発行主体。この債券を発行し、支払いを保証する団体です。各国政府が発行する債券が国債、地方自治体が発行すれば地方債、企業が発行すれば社債、と呼ばれます。発行主体が倒産すると、支払いはされなくなります(厳密な表現ではありませんが、とりあえずこれで十分)。
  • 2:償還期限。この債券が満期になり、最終的な支払いが行われる期限です。
  • 3:額面。この債券の満期時に、債券の持ち主が受け取る金額です。
  • 4:表面金利。クーポンとも呼ぶ。債券が満期になるまで、債券の持ち主が利息として受け取る金額です。1年に1度とは限らず、半年に1度、まったくなし(満期時のみ受け取りが発生する)などもある。表面金利ゼロの債券は、ゼロクーポン債、割引債などと呼ばれます。

このような債券が、色々な発行主体から、色々な種類が発行されています。たとえば日本の国債は、基本的に毎月発行されています。

債券の「価格」

では、上記の図のチケット(偽造はありえないものと仮定します)が販売されているとして、あなたはいくらで買いますか? 10年後に100万円ですよ。あなたは10年後に何歳になってますか? そのときに100万円もらえるんです。人生が変わるほど大きな額ではありませんが、それなりの金額ですね。ただ、日本政府が倒産すると、受け取れません。ちょっと本気で想像してみてください。

さて、あなたはいくらをつけましたか? ちなみにわたしは2万円ぐらいです。起業したばかりで何かと物入りなので…。

冗談はさておき、このチケットは誰でも自由に入札で買うことができます。したがって、2万円などでは落札できず、たくさんいる「買いたい人」の間で市場価格がつきます。

また、このチケットは、最初に発行されたときだけでなく、常時売買されています。もちろん、持ち主が変わった時点で、残りの金利と償還額の受け取り権限は新たな持ち主に変わります。

実際の債券の価格は、たとえば外国債については、大和証券のサイトにある「外債ハイパーマップ」で見ることができます。

http://www.daiwa.jp/products/bond/afr/

たとえば、「米ドル」のところをクリックすると、償還期限の違ういろいろなアメリカ国債が20種類ぐらい出てきます。価格は、期限やクーポンによってだいぶ違うのが分かると思います。アメリカ国債はゼロクーポンが多いのですが、期間が長いものではクーポンつきのものもあります。

このようにバラバラの償還期限やクーポンの債券が並ぶと、いったいいくらをつけたら適正価格と言えるのか、判断するのが難しくなります。これらを比較するために開発された指標が、「利回り」です。利回りの計算方法については後述しますが、まずは以下の3点をしっかり覚えておいてください。

  • 債券は株券などと同様に、価格がついて取り引きされるもの
  • 市場には各種条件が異なる、さまざまな種類の債券が流通している
  • 利回りは、償還期限・クーポン・価格などの条件から計算されるもの

まずはゼロクーポン債の利回り計算

まずは一番単純な、ゼロクーポン債の利回り計算を取り上げます。

さきほど紹介した外債ハイパーマップで、アメリカドル建ての債券の価格を確認します。この記事の執筆時点(2011/08/25)で償還日が近い順に3つ取り出すと、以下のようになります。販売価格は、償還日に$100もらえる債券の価格で、同じ通貨で書かれています。

銘柄名 クーポン 償還日 販売価格 販売利回り
米国国債ゼロクーポン債 0% 2015/02/15 98.81 0.346%(年1複利)
米国国債ゼロクーポン債 0% 2015/08/15 98.13 0.477%(年1複利)
米国国債ゼロクーポン債 0% 2016/11/15 95.33 0.922%(年1複利)

これらはすべてゼロクーポン債ですので、償還日まで持ち続ければ$100を受け取れて、それ以外にもらえるものはありません。このお金の出入り(今お金を払って、将来ある額を受け取る)は、預金と同じです。したがって、預金と同様にして利回りを計算することができます。

以前の記事(id:casualstartup:20110306)に書いた通りですが、元本をA、年利率をr(小数表記)、年数をtとすると、t年後の元利総額は以下のように表せます。

\Large A (1+ r)^t

この式に、上の表の1行目の利回り以外の数値を当てはめます。

まず、償還日までの日数を計算すると、2015/02/15 - 2011/08/25は、1270日です(自分はExcelを使って計算)。数式で必要なのは「年数」なので、1年を365日として年数に換算すると、1270/365 = 3.48となります。

販売価格と償還額の$100も代入すると、以下のようになります。

\Large 98.81 (1 + r)^{3.48} = 100

この式をrについて変形し、Windowsの関数電卓などで計算すると、以下のようになります。

\Large r = (\frac{100}{98.81})^{1/3.48} - 1 = 0.0345 = 0.345%

さきほどの表の「販売利回り」という項目とほぼ同じになりましたね(誤差はとりあえず気にしない)。せっかくなので、他の行も計算しておくと以下のようになります。

\Large r = (\frac{100}{98.11})^{1/3.98} - 1 = 0.00481 = 0.481%
\Large r = (\frac{100}{94.92})^{1/5.23} - 1 = 0.1000 = 1.000%

ゼロクーポン債の利回りは、このようにして求めることができます。なお、大和証券が出している数字と誤差が出るのは、1年の日数を何日としているかや、年数の数え方(月単位か、1年未満切捨てか)、計算中の丸め処理などの違いによると思われます。

利付き債券の利回り計算

次にちょっと面倒な、利付き債券の利回り計算を取り上げます。これはゼロクーポン債の利回りと違って単純な計算で求めることはできませんが、外債ハイパーマップを見ると以下のような利付き債券が出ています。

銘柄名 クーポン 償還日 販売価格 販売利回り
米国国債 2.000% 2016/01/31 105.45 0.743%(年2複利)
米国国債 3.652% 2021/02/15 112.93 2.109%(年2複利)

この利回りを求めるには、以前に書いた積み立て投資の利回り計算(id:casualstartup:20110703)を応用することになります。積み立て投資のお金の出入りは「定期的に支払って、最後にまとめて受け取る」でしたが、記事の後半に書いた通り、金額や期間を自由に変えても同じ方法で利回りを求めることができます。

利付き債券のお金の出入りは「最初に支払って、定期的にクーポン金利を受け取り、最後に償還額を受け取る」です。上の表の米国国債2%もののお金の出入りを、以前の記事のExcelファイルをちょっと変更したものに当てはめると図のようになります。

画像が見にくい方のために、C2, D2, D12の各セルの数式をテキストでも書いておくと、以下の通りです。

C2セル: =($G$3-A2)/365
D2セル: =B2*(1+$G$1/$G$2)^(C2*$G$2)
D12セル: =SUM(D2:D11)

C列、D列の空欄のセルは、それぞれ一番上の行の数式をコピーすればOKです。そのあと、「ゴールシーク」機能で合計金額(D12セル)が0になるように、年利(G1セル)を変化させたものが下の図です。

「年利」のセルは0.777%となり、多少の誤差はあるものの外債ハイパーマップに出ていた0.743%とほぼ一致することが分かると思います。

あとは、債券の価格を変えて、ゴールシークをやり直してみて、ニュースでよく見る「利回りが低下(価格は上昇)」などという表現を実感してみてください。

格付けって何?

さて、ここまで書いてきたように、償還期限やクーポン利率、発行体などがばらばらな債券でも「利回り」という1つの尺度で比較できるようになります。

このブログで主な目的としている「キャリアを築くための資産運用」では、多種多様な債券を資産運用に使うことはまずないと思うのでここまでの知識で十分だと思いますが、新聞などでよく見る「格付け」という言葉について簡単に補足しておきます。

さて、再び外債ハイパーマップを見て、今度は複数の通貨から、償還期限が似通ったものの期限と利回りだけを抜き出してみました(本当はトルコや南アフリカの国債を比較すると大きな違いがあって面白いのですが…)。

銘柄名 償還日 販売利回り
米国国債ゼロクーポン債 2015/02/15 0.346%(年1複利)
ドイツ国債 2015/04/10 0.849%(年1複利)
ニュージーランド国債 2017/12/15 3.872%(年2複利)

1行目の米国国債と、2行目のドイツ国債、期限は約2ヶ月しか違いませんが、利回りが0.346%と0.849%でだいぶ違いますね。このどちらがお得だと思いますか?

ここでは簡単に利回りが調べられる国債しか取り上げていませんが、世の中には、各自治体が発行する地方債や、企業が発行する社債もあります。そして、それぞれ期限も利回りもばらばらです。経営が危ないと思われる企業の社債とアメリカ国債では、当然前者の方が予定通りに支払いがされなくなる(デフォルトする)リスクは高そうですが、債券を買うたびにその発行体の安全性を個別に検討するのは大変です。

そこで、第3者機関である格付け会社が、それぞれの発行体のデフォルトリスクをAAA、BBのように何段階かでランク付けしたものが「格付け」です。注意が必要なのは、格付けとは、複数ある格付け会社それぞれが、たくさんの発行体のデフォルトリスクについて「当社ではこのぐらいだと考えている」と"意見表明"したものだという点です。したがって最近のアメリカの格付けのように、スタンダードアンドプアーズは下げたが、フィッチは下げない、という差が出ることがあります。