資産運用の算数 (1) 複利計算と積み立て預金を理解する

資産運用に、株など価格変化の激しい金融商品を使い始めると、つい日々の値上がり・値下がりが気になってしまい、一番大切にするべき自己投資がおろそかになることがあります。これを防ぐ方法は精神鍛錬などいろいろあるとは思いますが、ここでは、数字によるアプローチを紹介します。数学的な難易度としては、高校1年程度だと思いますが(つまり文系を選択しても勉強したはずの範囲)、適宜補足は加えます。

定期預金の利息は計算できますか?

いきなりですが、以下の計算はできるでしょうか? 電卓や表計算でちゃんと計算してみてください。

【問】年利1%で1年複利3年満期の定期預金に、10万円を預金しました。満期時点で、元利合わせていくらになっているしょうか(税金はとりあえず考えないこととします)。

複利とは、毎年の利息を元本と合わせて、その全体に対して次の利息を計算する方法です。したがって、1年たった時点では100,000 \times (1+0.01)、その次の年はこの全額に対して利息が生まれるので、\{100,000 \times (1+0.01)\} \times (1+0.01)となります。このようにしていくと、冒頭の問題の3年後の元利合計額は、以下の式で得られることが分かります。

\Large 100,000 \times (1+0.01)^3 = 103,030.1

さらにこれを一般化して、元金をA、年利率をr(小数表記)、年数をtとすると、t年後の元利の総額は以下のように表せます。

\Large A (1+ r)^t

「年利」という言葉の定義

さて、ここで実際の利率を調べてみましょう。たとえば、みずほ銀行の利率は下記にあります。

http://www.mizuhobank.co.jp/rate/deposit.html

ここで、低額から使える「スーパー定期」という商品のの1ヶ月ものと、3ヶ月ものの金利を調べると、共に0.03%と書かれています(執筆時点で確認)。では、以下の計算はできるでしょうか(くどいですが、ちゃんと計算してみてください)。

【問】10万円の元金を、自動継続の1ヶ月定期(利率0.03%)で1年間預けたときと、自動継続の3ヶ月定期(利率0.03%)で1年間預けたときの、1年後の元利総額はいくらでしょうか。ただし、1年間、利率は変化しないものとします。
ありがちな間違い

1ヶ月定期の利率を小数表示すると0.0003で、1年間は12ヶ月だから12回利息が付くから100,000 \times (1+0.0003) ^{12} = 100,361(小数点以下は四捨五入)。

3ヶ月定期は同様に、1年間だと4回利息が付くから100,000 \times (1+0.0003) ^{4} = 100,120(小数点以下は四捨五入)。

お、新発見。利率が一定なら、1ヶ月定期の方が3ヶ月定期の約3倍の利息が付く! …って、そんなわけはありませんね。これは式の立て方が間違えていることが予想できます。

利率は「年利(年率)」表示

上記のみずほ銀行のページをよく見ると、冒頭に「金利は年率・税引前で表示しています」と書かれています。これは、さきほどの1ヶ月定期と3ヶ月定期の例は、それぞれ以下のように計算するべきという意味です。

\Large \begin{eqnarray}100,000 \times (1+0.0003/12) ^{12} &=& 100,030\\100,000 \times (1+0.0003/4) ^{4}   &=& 100,030\end{eqnarray}

「年利r(小数表記)の年m回複利(たとえば3ヶ月複利なら、4回です)」となっているときに、1つの複利期間の利率は、以下の式で定義されます。

\Large (1+\frac{r}{m})

数学的に考えると、「m回複利で年間rの利率になるということは、1期間あたりはm乗根だ」(\sqrt[m]{1+r})となりそうですが、「年利」という言葉は上記のように定義されているので受け入れてください。

元利総額計算の全体を一般化すると、元本A、年数tに対して、t年経過後の元利合計は以下の式のようになります。

\Large A (1+ \frac{r}{m})^{mt}

積立預金の最終的な受取額を計算する(等比数列の和)

さて、次は以下の計算をしてみましょう(現実の利率を見ていて、あまりの低さに嫌気がしてきたので、例題では6%にしました)。いきなり電卓で計算できるようなものではないので、まずは式を書いてみることをおすすめします。

【問】年利6%で1ヶ月複利の定期預金に、毎月5万円積み立てることにしました。5年間積立を続けた時点で、元利合わせていくらになるでしょうか(積立は今月から開始し、60回積み立てると解釈してください)。金利は5年間変わらないものとし、税金は考えないものとします。

元利の合計は、今月積み立てる5万円は5年後までに60回利息が付き、来月の5万円は59回の利息…というようにして、最終日の1つ前の月の5万円には1回だけ利息がつくところまで合計したものになります。数式にすると、以下のようになります。この合計をSとしておきます。

 \Large 5 \times (1+\frac{0.06}{12})^{60} + 5 \times (1+\frac{0.06}{12})^{59} + \cdots + 5 \times (1+\frac{0.06}{12})^{1} = S

和の順序を逆にすると、以下のようになり、公比(1+\frac{0.06}{12})の等比数列の和になっていることが分かります。
 \Large S = 5 \times (1+\frac{0.06}{12})^{1} + 5 \times (1+\frac{0.06}{12})^{2} + \cdots + 5 \times (1+\frac{0.06}{12})^{60}

等比数列の和の公式を思い出してもいいのですが、筆者は覚えていないのと、公式を使うと項数を間違えることが多いので、以下のように公式の導出手順をいちいち使っています。これも、おそらく高校数学の範囲だったと思うのですが、式全体に公比を乗じたものを、引き算するという手順です。
\Large\begin{eqnarray}S &=& 5 \times (1+\frac{0.06}{12})^{1} + & 5 \times (1+\frac{0.06}{12})^{2} + &\cdots &+ 5 \times (1+\frac{0.06}{12})^{60}\\- ) \hspace{2pt}(1+\frac{0.06}{12})S &=& & 5 \times (1+\frac{0.06}{12})^{2} + & \cdots &+ 5 \times (1+\frac{0.06}{12})^{61}\\\hline\hspace{60pt}- \frac{0.06}{12} S &=& 5 \times (1+\frac{0.06}{12})^{1}&&&- 5 \times (1+\frac{0.06}{12})^{61}\end{eqnarray}
上記は、画面の幅の都合で、数式右側の位置をきちんと合わせていないので見難いかもしれませんが、2乗から60乗の間の項はすべて差し引きゼロでなくなるので、あとは以下のように計算できます。
\Large\begin{eqnarray}\therefore\hspace{15pt}S &= & \frac{12}{0.06} \times 5 \{ (1+\frac{0.06}{12})^{61} - (1+\frac{0.06}{12})^{1}\}\\  &= & 200 \times 5 \times (1.356 - 1.005)\\  &= & 351\end{eqnarray}
というわけで、答えは約351万円です。積立て金自体は5万円を60回なので300万円。利息が5年間で約51万円つくということになります。

こうして式で書くと面倒に見えますが、等比数列の和は、金融関係では必須の基礎知識なので、この機会に思い出しておくことをおすすめします。

なお、一般化しておくと、元本Aの積立を、1期間の利率r、利息の回数nだけ積み立てたときの最終的な元利総額は以下の式で得られます。
\Large\frac{A}{r} \{ (1+r)^{n+1} - (1+r)\}

次回は、今回の知識を応用して、「利回り」という言葉がよく使われるけど「価格が下がると利回りは上がる」などと言われてもよく分からない債券について紹介します。

数学的余談

整数乗ではないべき乗の計算

今回は、記述を簡単にするために、預け入れ期間が複利期間の整数倍になる場合だけを例としてあげています。では、「6%の1年複利で1.2年預ける」などという場合はどう計算すればいいでしょうか。「1.06の1.2乗ってどうやるんだろう?」と思うかもしれませんが、実は、べき乗は整数乗でなくても計算可能です(表計算ソフトで試すと分かると思います)。

ある数xの有理数乗(\frac{b}{a}は以下のように定義されています。
\Large x^{\frac{b}{a}} = \sqrt[a]{x^b}

上記の例だと、1.2年は\frac{6}{5}ですので「1.2乗する」とは「6乗して5乗根を取る」ことになります。

このように半端な期間によるべき乗計算は、定期預金では途中解約しない限り発生しませんが、次回以降、厳密な計算が面倒なときには使うことがあります。手計算しなければ気にならないとは思いますが、気になったときのために一応メモしておきます。

連続複利

n回複利で年数tのときの元利総額の式をもう1度見てください。

\Large A (1+ \frac{r}{n})^{nt}

年利rを一定のまま、2回複利(半年複利)、12回複利(1ヶ月複利)、365回複利(1日複利)…というように複利回数を無限に増やしていくとどうなるでしょうか。

\Large \lim_{n \to \infty} A (1+ \frac{r}{n})^{nt}

\frac{n}{r}xと置き換えると、
\Large \lim_{rx \to \infty} (A (1+ \frac{1}{x})^{x})^{rt}
\Large \lim_{x \to \infty} (1+ \frac{1}{x})^x = e
なので、上記の式は
\Large A e^{rt}
と変形できます。これは、無限小時間の複利の式と言えますが、このような複利を「連続複利」と呼びます。金融工学で時間を連続しているものとして扱いたいときに使うようです。

「72の法則」(大学レベル)

いわゆるマネー雑誌などを見ていると「72の法則」として、「年間利率z%(パーセント表記なことに注意)で運用したときに、元本の2倍になるのにかかる年数は、だいたい\frac{72}{z}で得られる」と書かれています。

これは、今回の知識があれば厳密に計算することができます。元本A、年間利率z%で、2倍になるのに年数をtとすれば、以下の式が立てられます。

\Large A (1+\frac{z}{100})^t = 2A
両辺をAで割って、さらに自然対数を取ると
\Large t \cdot \log{(1+\frac{z}{100})} = \log{2}

これぐらいの式は、いまどきならWindowsの標準電卓でも、iPhoneの標準電卓(ただし横向きにする)でも、計算できるので「72の法則」なんて言わずとも厳密に計算すればよいと思います。

ここで、 \log{(1+x)}(ただし|x|<1)をゼロの周りにテイラー展開すると、 x - \frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{3}+ \cdotsとなります。xが十分小さければ、2乗以降の項は、無視できるほど小さくなり、xに近似できます。さきほどの式にこの近似を当てはめると、以下のようになります。

 \Large t \frac{z}{100} = \log{2}
 \Large t = \frac{100 log{2}}{z} = \frac{69.3}{z}

なお、「十分小さい」というのは工学一般には、0.01以下とします。つまり、zが1%以下であれば、上記の式で近似できるということです。いわゆる「72の法則」は、これをさらに約数が多くて計算しやすい数字である72で近似したものと思われます。

検索してみたら、さらに詳しく考察しているブログがありました。興味のある方は読んでみてください。http://oad.seesaa.net/article/18288788.html