MBA留学にいたるまで(24〜31歳)

経営に興味を持ち始める

新卒で日系大手電機メーカーの研究所に就職、という経歴から想像できる通り、この頃は経営というものにまったく興味がありませんでした。むしろ、経営者インタビューにありがちな「人間力」のような抽象的な言葉を毛嫌いして、ビジネス雑誌はいっさい読まないという状態でした。

しかし、仕事をしながら部門や会社の上の方の人たちのやり方を見ているうちに、なんとなく「もっとマシな経営のやり方があるはずだ」と感じるようになりました。たとえば、役員の話す「今年の経営方針」のようなものを聞いて、「そんなにいっぱい手を出したらどれも中途半端になるって、自分みたいな若造でも分かるのに」と思っていました。

また、赤字だからという理由で研究予算が削られたり、極端なときには文房具が発注禁止になりボールペンすら自腹で買わざるをえない状況を見て「ビジネスをやる以上、まずはカネがないとどうしようもない」という思いが強くなりました。誤解のないように補足すると、「人生はカネじゃない」と思っていますし、ビジネスだってカネのためのものだと思っているわけではありません。「カネはビジネスの前提条件」と思っています。

こんなことを感じつつ「そうは言っても、今自分が経営者になってもやり方は分からないから、いずれマネージメント教育の本場アメリカにMBA留学でもしてちゃんと勉強してみたい」と、入社2年目ぐらいから漠然と考えていました。

部署を転々とする日々で考えていたこと

入社して丸2年がたった頃、会社が大赤字を出し、そのあおりで自分が所属する研究所が解体されることになりました。そして、部ごとに別々の事業部に異動することになりました。勤務地も、東京から川崎に変わりました。そのとき部として一緒に異動したチームも、その1年後にさらに解体されて、異動先の事業部に吸収されました。

当時の自分は分かっていなかったのですが、このように部署が解体されて異動すると、昇進の面では不利になります。昇進というのはその時点で所属している部署での評価が基準になりますが、所属期間が短ければ評価されにくいのは当たり前です。同じチームの先輩たちは、異動が発表されると、評価に関するこのような懸念を話していました。

そんな中で、自分は常に「多少損をするかもしれないけど、新しい経験を積むのも楽しそうだな」とワクワクしていました。もともと新し物好きという面はありますが、「経験の幅を広げることで成長できそうだ」と考えていたというのもあります。その後も、1年ちょっとごとに所属チームや担当製品が変わりましたが、一貫して前向きに考えていました。

MBA留学を決めた理由

このように、日々の仕事は楽しかったのですが、自分のいた半導体部門は新卒採用を絞り込んでおり、入社して6年たっても直接の後輩というのはいませんでした。自分は経営に興味を持っていたので、少しずつ後輩や部下を持ち、マネージメント経験を積んで行きたいと思っていたのですが、なかなか機会がありませんでした。

また、さきほど書いた理由で昇進も遅かったために、昇格者向けの「リーダーシップ入門」のような研修も受けることができませんでした。

こんな現状に少々悶々としていた頃、たまたま社内ネットで、派遣留学生の募集案内が出たのに気づきました。それを見て「社内で自分の積みたい経験が積めないなら、外で勉強するしかない」と考え、以前から興味のあったMBA留学をしてみようと決意しました。

留学準備について

決意したといっても、MBAについてはなんとなく興味を持っていただけで、具体的にいつ留学しようという考えはありませんでした。したがって、派遣生募集の案内を見た時点では、そもそもMBAにどうやって入学するのかも知りませんでした。その日の帰宅前に大きな書店に寄って、MBAの棚から何冊かの本を買いました。

本を読んでみると、ビジネススクールでのMBA生活は、興味を持っていた経営の知識をたっぷり学びながら、さらにいろいろな国から集まる優秀な学生たちからさまざまな刺激を受けることもできそうで、考えるだけでワクワクしてきて、会社派遣でなくても受験したい、と思うようになりました。

幸いにして、上司や人事部に自分の希望を認めてもらい、会社派遣で留学できることになりましたが、ビジネススクールの試験は自力で突破しなくてはなりません。英語については入社以来、ちょくちょく勉強していてTOEICで860点は越えていましたが、その他の対策は何もできていませんでした。4月に準備を始めて翌年1月に出願しましたが、その間、すべての飲み会を断り、仕事以外の時間はひたすら留学準備をしていました。

留学先について

受験校は、以下のような基準でいくつか選びました。

  • 旅行や出張で行くことのあまりなさそうな、中部から東部の地方都市に住んでみたい
  • 電機メーカーに帰ってきて役立ちそうなGeneral Management中心の学校
  • 知的刺激が大きそうなランキングの高い学校(地方都市を選ぶと、あまり多くないのですが)

最終的に、合格した中からデューク大学(Duke University)のフュークア(Fuqua)経営大学院に留学することを決めました。